レンタル姫 ~国のために毎夜の夜伽を命じられた踊り子姫は敵国の皇帝に溺愛される~
 父王のすぐ隣に立つ王妃が口元を扇子で隠して高笑いする。
 意地の悪い笑い声が、ノツィーリアの胸に突き刺さった。

「娼婦の娘たる貴女には、実に似合いの務めだわ」

 睨みつけてくる目はノツィーリアの実母が毒殺された瞬間を思い起こさせるおぞましい笑みを浮かべていた。
 玉座までまっすぐに伸びた赤い絨毯の両側で、大臣たちも一斉にうなずく。父王そして王妃の言葉を否定する者などここにはいない。

 心が吹雪にさらされたかのように一気に冷えていく。

(なんて卑俗な発想なの……!)

 にわかに走りだした寒気に身をすくめる。ノツィーリアは、正気とは思えない父王の命令に食い下がらずにはいられなかった。

「王家が率先して淫売をするだなんて、国民からの支持が減る一方ではありませんか。ただでさえ重税を課し、不満分子が年々増加して行っているというのに……」
「知った風な口を聞くな!」
「――!」

 怒声が胸を打ちつらぬき、いよいよ全身が凍りつく。
 反射的にぎゅっと目を閉じてしまったノツィーリアは固く拳を握りしめると必死に自身を奮い立たせた。
 考えを巡らせて、機嫌を損ねないように言葉を選ぶ。
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