レンタル姫 ~国のために毎夜の夜伽を命じられた踊り子姫は敵国の皇帝に溺愛される~
 睨み付けてくる目は、ノツィーリアの実母が毒殺された瞬間を思い起こさせるおぞましい笑みを浮かべていた。
 玉座までまっすぐに伸びた赤い絨毯の両側で、大臣たちも一斉に頷く。父王そして王妃の言葉を否定する者などここにはいない。

 心が吹雪にさらされたかのように、一気に冷えていく。

(なんて卑俗な発想なの……!)

 にわかに走り出した寒気に身をすくめる。ノツィーリアは、正気とは思えない父王の命令に食い下がらずにはいられなかった。

「王家が率先して淫売をするだなんて、国民からの支持が減る一方ではありませんか。ただでさえ重税を課し、不満分子が年々増加して行っているというのに……」
「知った風な口を聞くな!」
「――!」

 怒声が胸を打ち貫き、いよいよ全身が凍りつく。
 反射的にぎゅっと目を閉じてしまったノツィーリアは、固く拳を握り締めると必死に自身を奮い立たせた。
 考えを巡らせて、機嫌を損ねないように言葉を選ぶ。

「ご提案なのですが、たとえば舞を舞ってみせるだけではいけないのですか。歌だって歌えます」
「阿呆か、貴様は。希代の踊り子たる貴様の母親と貴様とでは比べものにならぬだろうよ。貴様が昔から舞や歌の修練をひそかに積んでいることは方々より聞き及んでおる。だが凡庸な貴様の舞ごときで金を出す者などいるものか」
「ですが、この身を差し出したとて、わたくしめを一晩五百万エルオンなどという大金で買い求める好事家が、そうそういらっしゃるとは思えません」
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