レンタル姫 ~国のために毎夜の夜伽を命じられた踊り子姫は敵国の皇帝に溺愛される~
「国王陛下からは、『とにかく量を与えよ』と申し付かっていたのですが……。ノツィーリア様は食が細くていらっしゃるので、少ない量から始めさせていただきました。これから徐々に増やして参りますので、まずは一般的な女性の食事量に戻すことを目指して参りましょう」
「……わかりました」

 スープを飲む手が止まらず、気づけば最後のひとくちとなっていた。身体中に栄養が行き渡るような、癒される感覚が全身に広がっていく。

 食後に出された茶もまた、香り豊かで心が洗われるかのようなおいしさだった。
 ノツィーリアは老執事と料理長とに見守られる中、その茶をじっくりと味わった。


「……ごちそうさまでした」

 ナプキンで口を拭い、ほっと息を吐き出す。
 老執事は音も立てずに手早く食器をワゴンに戻し、再び料理長と二人揃って頭を下げると、静々と部屋を出ていった。

 静寂が戻ってくる。

 ノツィーリアは椅子に腰掛けたまま全身から力を抜くと、円卓の上に突っ伏した。
 久しぶりのまともな食事で満たされた体が、今度は自己嫌悪にさいなまれはじめる。

(ここまでされておいて、私はまだ、生きたいと願ってしまっているのね)

 食事を残さなかったのは老執事と料理長のため以外の何物でもなかったが、出された料理を夢中で食べたのは、体がそれを欲したから。

 お母様のところへ行きたいと願い、飛び降りようとまでしたのに――。

(私はなんて、意思が弱いんだろう)

 傷付きひしゃげた心を自らの言葉でさらに押し潰せば、たちまち涙が浮かんでくる。
 燭台のろうそくが燃え尽きて煙をたなびかせるまで、ノツィーリアは円卓から一歩も動くことができなかった。
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