レンタル姫 ~国のために毎夜の夜伽を命じられた踊り子姫は敵国の皇帝に溺愛される~
 老執事と料理長は円卓から数歩離れた位置で並び立ち、胸に手を置くと、二人揃って頭を下げた。

「今後、ノツィーリア様がお務めをされる間は、私どもが食事を運んで参ります」

 メイドのせいで料理を食べられないことを、彼らは知っているのだろうか。とはいえ知ったところでノツィーリアをかばいだてしようものなら悪目立ちしてしまい、今度は彼らが妹の標的になる恐れがある。

 何よりたった今聞かされた『お務めをされている間』という言葉が胸に刺さり、心臓が脈打つたびに痛みを走らせる。毎晩課されたお務めというものは、一体いくら稼げば御役御免となるのか。
 彼らが淫売をやめさせる理由など、どこにもない――。それに気づけば、目の前の料理から立ちのぼる芳しい香りすら、吐き気を催させる。

 しかしこの料理に一切手を付けなければ、罰せられるのは彼らである。
 虐げられるのは自分だけにとどめなければ――。ノツィーリアは気力を振り絞り、膝の上から手を持ち上げると、スプーンを拾い上げた。

「……いただきます」

 小声で告げ、湯気の立ちのぼる透明な液体をこわごわとすくう。

 虫も埃も浮かんでいない、汚れた水も垂らされていないスープを口に流しこむ。
 途端に、様々な野菜と肉の旨味が口いっぱいに広がった。

「おいしい……!」

 心の底からの感想が思わずこぼれてしまった瞬間、固唾を呑んで見つめてきていた料理長がびくりと肩を震わせた。
 しかしすぐさま、静かに息を吐き出す。『不味い』あるいは『食べたくない』などと、わがままを言われると不安に思っていたのだろうか。

(こんなにおいしいスープ、初めて飲んだ……!)

 もしかしたら母が存命中は、こういった良質な料理を当たり前のように食べていたかもしれない。
 長らく虐げられてきたせいで、幼い頃の食事の思い出はすっかり掻き消されてしまっていた。

 急いで平らげたくなる気持ちを抑えて、温かなスープをひとくちひとくちじっくりと味わう。
 ノツィーリアが食事を進めていると、様子をじっと見守ってきていた料理長が説明を始めた。
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