レンタル姫 ~国のために毎夜の夜伽を命じられた踊り子姫は敵国の皇帝に溺愛される~
 恐怖心を抑えつつ、相手の反応を待つ。
 すると、ゆっくりと一度まばたきをした皇帝が、赤い瞳でノツィーリアを見据えた。

「そなたが悪女と噂のノツィーリア姫か」
「ルジェレクス様! この女と関わると、ろくなことになりませんわ!」
「黙れ。貴様に用はない」

 妹の叫び声を剣で一閃するかのような、鋭く低い声。瞬時に空気が凍りつく。ノツィーリアも並び立つディロフルアもほとんど同時に肩を跳ねさせた。
 しかしディロフルアは冷酷なまなざしを受けても怯むことなく一歩前に踏みでると、引きつった声で反論しはじめた。

「ルジェレクス様? このわたくしがお相手して差し上げると申しておりますのよ? こんなにも美しい私を差し置いて、お姉さまをお選びになるとでもおっしゃるつもりですの? そんなこと、天地がひっくり返ってもありえないことですわ! 今まで生きてきて、わたくしを称えなかった者なんてひとりもおりませんもの!」
「はっ、王族の顔色をうかがう者しか周りに侍らせてこなかったというわけだ。貴様は狭い世界に生きてきたのだな。余は秘匿され続けてきた姫君、ノツィーリア姫が売りに出されたと聞き付けたからこそ、ここへ参ったのだ」
「お姉さまは今までかくまわれていたわけではなく、単に王族としての責務から逃げ回っていただけですわ!」

 ディロフルアが、世間一般に広まっているノツィーリアの悪評を皇帝に訴え出す。
 それをノツィーリア自身が否定したところで、信じてくれる人はいない。当然、皇帝陛下だって――ノツィーリアは沈む心に引きずられるように、床に視線を落とした。
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