レンタル姫 ~国のために毎夜の夜伽を命じられた踊り子姫は敵国の皇帝に溺愛される~

8 妹の嘘泣き

 妹がノツィーリアの悪評をルジェレクス皇帝に吹き込むも、返ってきたのは意外な反応だった。

「よくもまあ、そうつらつらと虚言を吐けるものだな」

(私たちの事情をご存じでいらっしゃるの……?)

 妹の言葉を否定する発言にノツィーリアは目を見開いた。ルジェレクス皇帝はなぜかノツィーリアの噂には否定的なようだった。さすが十年前まで戦争をしていた国だからこそというべきか、国交のないレメユニール王家の現状についてなにかしら情報をつかんでいるのかも知れない。
 動揺して言葉を失った妹に、皇帝が畳みかける。

「貴様が美しいだと? 鏡を見たことがあるのか貴様は。ねじ曲がった性根がそのゆがんだ表情にありありと現れておるぞ。ああ醜い」

 妹に向けられたものとは思えない言葉の暴力を振るった皇帝が、腕組みしたまま部屋中に高笑いを響かせた。

 ディロフルアは大げさに震わせた両手で頬を挟みこむと、乱れた呼吸を数回繰り返したあと、今にも裏返りそうな声で叫んだ。

「な、な、なんですってえ……! わたくしが醜いと、そうおっしゃったんですの!?」
「なんだ、客の言葉を聞きもらしたとでも言うのか。ならばもう一度言ってやろう、()()()()()
「ひどい! いくらお客様でもそのお言葉はあんまりですわ! ねえノツィーリアお姉さま、お姉さまからも言って差しあげてくださいまし!」
「!?」

 まさか自分に話を振られると思っておらず、ノツィーリアは思わず眉をひそめて妹を見てしまった。負の感情をはっきりと出した表情を妹に返すのはこれが初めてだった。
 なぜ今まで虐げてきた人間が自分に味方してくれると思えるのか。あまりに身勝手な発想に、媚薬の熱に侵された頭に怒りが湧いてくる。
< 31 / 66 >

この作品をシェア

pagetop