レンタル姫 ~国のために毎夜の夜伽を命じられた踊り子姫は敵国の皇帝に溺愛される~
 皇帝と近衛兵との間に立ち塞がり両腕を広げてみせれば、剣を構えていた兵士がノツィーリアを見るなりぎょっとして頬を染める。お務め用の寝衣姿のノツィーリアを目にして動揺したらしい。
 この状況で利用できるものなら何だって利用してみせる――。さらに兵士をうろたえさせるべく、ノツィーリアは注視されている部分を見せ付けるように胸を張った。

 必死になるノツィーリアの耳に、父王のため息が聞こえてくる。
 冷めた声が、非情なる(めい)を下す。

「そいつは用済みだ。邪魔立てするならば殺しても構わぬ」
「はっ」

 すかさず応答した兵士が、今度はノツィーリアに標的を移す。
 ノツィーリアはその男を見据えると、胸の内で叫んだ。

(ルジェレクス皇帝陛下は私が守ってみせる! 大勢の国民が死ぬことになるくらいなら、一度は死のうとしていた私の命、差し出しても惜しくない!)

 何度斬り付けられようとも、ここから決して動かない――!

 そう固く誓って兵士を睨み付ける。
 剣が高く振りかざされる。

 斬られる痛みを覚悟した、次の瞬間。


 鋭い金属音が部屋中に響き渡った。


 ノツィーリアと兵士の間には、短剣を構えた妹の元婚約者ユフィリアンが、腰を低くした姿勢で立ちはだかっていた。長い兵士の剣を、丈の短い剣で難なく受け止めている。
 先ほどまで、並び立つ兵士の陰でへたり込んだままだったというのに――。思いも寄らない出来事に、死を覚悟していたノツィーリアは何が起きたかすぐには把握できなかった。
 一方で、父王が忌々しげに頬を引きつらせる。

「ふん、やはり貴様は間者であったか。シュハイエル家の()()である時点で嫌疑を掛けるべきだったな」
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