レンタル姫 ~国のために毎夜の夜伽を命じられた踊り子姫は敵国の皇帝に溺愛される~
 ノツィーリアの目の前で、男たちの怒涛の勢いに怯むかのように、ユフィリアンが一歩下がる。
 地響きのような音が迫りくる。駆け寄る男たちが、こぞって剣を振りかざす。
 これからどれほどの痛みを与えられるのか――。死の恐怖に固く目を閉ざして、衝撃に身構えたその瞬間。

 背後から腕をつかまれ、強く引かれた。
 直後、鋭い金属音が連続する。

 よろけて目を閉じてしまったノツィーリアが目蓋を開くと、自分が皇帝の片腕にしっかりと抱きかかえられていることに気づいた。
 皇帝のもう一方の手には剣。先程までユフィリアンが持っていた、兵士から奪った武器。
 突然の事態に頭がついていかず、ただ間近にある皇帝の顔を見上げる。その赤い眼光は周囲を一瞥したのち、まるで目の前の出来事に興味をなくしたかのように、ふと長い睫毛が伏せられた。

 一体何が起きたのだろう――。おずおずと辺りを見回す。
 すると信じがたいことに、兵士たちは誰もが壁まで吹き飛び、床にへたり込んでうなり声を洩らしていた。

(今の一瞬で、皇帝陛下は兵士たちを全員押し返したの……!?)

 現実離れした光景に、ノツィーリアは唖然とする以外に何もできなかった。

 父王の『何をしておるのか貴様たちは!』と叫ぶ声が聞こえて来る。ぐったりとした兵士たちを見て、顔を真っ赤にして怒り狂っている。
 父の怒号を遮るかのように、ルジェレクス皇帝が低い声を凛と響かせた。

「シアールード」
「はいよ~」

 皇帝が声を発した直後、何もない空中から人間の頭が出現した。それはいつぞや魔道具の説明をしていた魔導師だった。空中にできた隙間から()い出てきて、ひょいと絨毯の上に降り立つ。
 目を疑うような出来事に、壁際でへたり込んだ近衛兵たちがざわめきはじめる。
 うろたえる兵士たちの声に、父王の怒声が被せられた。

「貴様、帝国と通じておったのか! これだから魔導師というものは……! ええい、誰でもよい! その者を捕らえよ!」
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