レンタル姫 ~国のために毎夜の夜伽を命じられた踊り子姫は敵国の皇帝に溺愛される~
 亡き母を憶えているどころか今でも思いを寄せてくれていると聞かされて、ノツィーリアは思わず手を合わせて声を弾ませてしまった。
 笑顔になったノツィーリアを見て、皇帝もまた笑みを浮かべる。

「我が父である先帝が、余が幼い頃、伝説の踊り子の思い出話を何度も語って聞かせてくれていたのだ。そのたびに母上がすねていたな」
「まあ、ご家族の仲がよろしくていらっしゃるのですね」

 温かな家族の光景を思い描けば、ノツィーリアの方こそ憧れの念を抱いてしまう。優しい母との思い出の上には、家族との苦い記憶が厚く降り積もっていた。
 それらを心の中で振り払い、母の笑顔を脳裏によみがえらせれば自然と顔がほころびる。

(かつて訪れた国の人々の心の中にこうしていつまでも思い出として残っているなんて。お母様は本当に、素晴らしい方なんだわ……!)

 熱い思いを抱き締めるように、胸の前で両手を重ねてぎゅっと握り込む。
 涙の浮かぶ目を閉ざして、感嘆のため息をついた。


 ノツィーリアが喜びに浸っていると、不意に声を掛けられた。

「ノツィーリア姫」
「は、はい」

 すぐさま目を開き、両手を下ろして背筋を伸ばす。
 皇帝の顔に視線を向けた途端、赤い瞳が切なげに細められた。

「そなたの手を見せてもらってもよろしいか」
< 51 / 66 >

この作品をシェア

pagetop