修道院育ちの新米侍女ですがお家騒動に巻き込まれたかもしれません
「おいおい、今お帰りかよ」

「……どうした、カルゼ。お前の離れは向こうだろう」

「ははっ、お前たちが離れから出ているってのに、俺だけが出ちゃいけないってことはないだろう?」

 ロルフたちと同じく銀髪で後ろに一つ結びにしている、ひょろっと細長い体格の20歳ほどの男性が、にやにやと笑みを浮かべて現れた。

「俺は仕事の日だけは庭園に出ることを許されているだけだし、クルトもあの年齢だし、その時間だけ遊ぶことを許されているだけだ」

「あの年齢だから、ねぇ? 天才児に、わざわざ遊ぶ時間なんて必要なのか?」

「天才だろうがなんだろうが、子供は子供だろうが」

 ロルフがそう言えば、カルゼと呼ばれた男は肩を竦めた。

「ま、お前たちがそうやって自由な時間があるのに、俺にないってのが癪に障ったんでね。俺もお前たちが庭園に出ている時ぐらい、多少は本館に行ったりする自由をもらうことにしたんだ」

「そうか。それは良かったな。離れにいるだけでは、気が詰まるだろうしな」

 では、とロルフがその場を離れようとするが、カルゼはそれを許さない。

「俺とクルトとの一騎打ちじゃあ、大人と子供だからな。仕方なく、頭数にお前が入っただけだ。俺が次期当主になったら、お前はここから追い出すからな!」

 さきほどクルトを子供扱いしないような発言をしていたのに、もう撤回するのか、とロルフは心の中で呆れる。しかし、冷静に「そうだな」と返した。

「俺も、そうして欲しいよ。好きでここにいるわけじゃない。お前が次期伯爵になったら、ここから翌日、いや、その当日にでも去るさ」

「そうか。ははっ、いい心がけだな! お前のように、自分に力がないとわかってるやつは、そうやって逃げた方がいいぞ」

 そう笑ってカルゼはようやく歩き始め、ロルフの前から去っていった。その後ろ姿を見送ってから、ため息をつくロルフ。

「お前だって、側室の子供で、俺とそこまで変わりがないだろうに……」

 手にしていた十字クワをくるくると回転させて、ロルフはそう言った。勿論、カルゼには聞こえていない。

「ロルフ様」

「ああ、戻った」

「おかえりなさいませ」

 もう一つの離れに到着すると、護衛騎士が2人ロルフに頭を下げる。その一人にクワを渡しながら命じる。

「俺が庭に出ている間、カルゼの動きに注意をしていてくれ」

「かしこまりました」

「もちろん、俺のためではなくクルトのためだ。頼りにしているぞ」

「はっ」

 そう言って護衛騎士はロルフに一礼を返した。
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