修道院育ちの新米侍女ですがお家騒動に巻き込まれたかもしれません
 カルゼは裁かれ、また、今回の件で名前こそ出てこなかったが、故メーベルト伯爵の後妻は、近くの別荘に居を移すことになった。もともと領地経営には何の手出しもしていなかったのだから、本館にいる必要もない。この先は、決められた予算を分配されて、それ以上の収入はなく、その予算内でやりくりして生活をする。ただそれだけの立場になった。

 当然、その「予算」も、レギーナが聞けば卒倒するほどの金額だが、ロルフの話だと「それだけじゃ足りないって言いそうだ」ということだった。カルゼと手を組んで、今後もメーベルト伯爵家の資産をあれこれうまく使おうと思っていたのだろうが、残念ながらそれは許されないことだ。

「とはいえ、今後何かがあってカルゼが後妻のことを白状しなければ、というだけだが」

とロルフは言う。彼らの見込みでは、十中八九カルゼは口を割ると思われており、そうなったらまた後妻の処遇は変わるだろうと言うことだった。

「本当にロルフが後継者の、そのう、代理みたいなものになるんです?」

「なるしかねぇなぁ……」

 何故か、レギーナが昨晩泊った部屋にロルフはやって来た。レギーナは「わたしはこれからどうしたらいいんだろうか……」と思いながら、仕方なくソファに座ってロルフの相手をする。

「それにしても、ロルフも後継者の教育っていうの? 聞いた話より、ちゃんとしていたみたいですね?」

「俺がやっていたことなんて、たかがしれてるよ。例えば、カルゼなんかさ、本当に10才ぐらいからずーーーっとそういう教育を受けて来たんだ。だから、あいつが後継者になれれば良かったんだよ。だけど、性格や考え方に難があるからさ……」

 なるほど、確かにそのようだ。うまくいかないものだ……レギーナはそう思って、ため息を小さくついた。

 メーベルト伯爵家の後継者候補は、三者三様で長所と短所が極端だ。消去法で仕方なくロルフが代理人になることになったが、彼自身が「向いている」かどうかはまた別の話だ。

「あのう、ロルフ、そろそろわたし、離れに戻りたいのだけど……」

「ああ、それも話さなくちゃいけなかったな……あのさ、離れはさ……後継者選びが終わったら、離れの掃除などはまた当分やらなくてよくなるらしいんだよ」

 ロルフの言葉にレギーナは驚いた。何故なら、彼女はこの先もずっと離れを綺麗に維持すれば良いと思っていたからだ。実際、雇われて侍女長と話をした時も期限については何も言われていなかった。勿論、それもまた今回の事件ありきのことだったのだろうが……。

「ええっ!? そ、それは、聞いていませんでした……いえ、いえ、そもそも後継者選びが行われているという話も、ロルフから聞いた話でしたし……」

「だって、次の後継者選びはクルトの後継者だぞ? 何年後だと思ってるんだ?」

 確かにそれはそうだ。きっと、30年後、もしかしたら40年後ぐらいになる可能性だってある。それまで、毎日毎日あの離れに暮らして綺麗に維持を……

「確かに、ちょっと無駄ですね……」

 うう、とレギーナは口をへの字に曲げた。ロルフは「そういうこと」と肩を竦める。

「それでさ。あんたは……給金を修道院に送ったんだよな? この先も、そうしたいと思っている?」

 そのロルフの言葉に、レギーナは背すじをぴんと伸ばす。

「はっ、はい! そうです! ですから、そのう、出来ればこちらでこのまま雇っていただくことは出来ませんか……? こんな図々しいお願いをするのは申し訳ないんですが……わたし、お掃除も、お洗濯も、得意です! そのう、お食事を作ったりは、えーっと、厨房は自信がありませんが、いえ、自信がないっていうのは、わたしは庶民の食事しか作れないからで……えっと、それから……」

「そうか。じゃあ、頼みがあるんだが」

「はい!」

「まず、俺の世話をして欲しいんだが」
< 45 / 49 >

この作品をシェア

pagetop