仮面夫婦は仮面を剥ぎ取りたい。〜天才外科医と契約結婚〜


「それで、あず姉は本当に幸せなの?」


 妹の問いになんて答えたら良いかわからず、フォークを握りしめていた。


「あず姉はなんでも私ばかり優先して、いつも自分のことは二の次じゃない。私はあず姉に支えてもらってばかりで、私の存在が重荷になってるんじゃないかって悩むこともあった」

「そんなことない!重荷になるわけないよ!」


 思わず杏葉は大きな声を出してしまい、ここが病室だということを思い出して慌てて口を塞ぐ。
 柚葉はそんな姉にクスリと笑った。


「ありがとう。でもね、あず姉にはずっと自分だけの幸せを考えて欲しいなって思ってた」

「私だけの幸せ?」

「私はあず姉に誰よりも幸せになって欲しい。あず姉は今幸せ?」

「……っ、私はずっと、柚葉がいてくれたらそれで幸せだったの」


 両親を亡くし、たった一人の家族で大切な妹。
 柚葉が大好きなフィギュアスケートに打ち込んで、夢を追いかける姿を隣で応援できれば、それだけで幸せだった。


「でも今はね、壱護が一緒にいてくれたらいいなって思う。壱護と他愛のない会話して一緒にご飯食べて、笑い合ってる時間がすごく幸せだなって思うの」


 キラキラしたセレブな生活なんていらない。
 ただ一緒にいてくれるだけで良い。何年先の未来も二人で歩んでいけたら、そう思えるだけで幸せだなと思う。

 壱護も同じ気持ちになってくれたら――もっと幸せだ。


「契約結婚だったのに、本当に好きになっちゃった……」


< 77 / 93 >

この作品をシェア

pagetop