仮面夫婦は仮面を剥ぎ取りたい。〜天才外科医と契約結婚〜


 これ以上は息が続かない、と壱護の胸板をバシバシ叩いて訴える。


「んっ、はあ……っ」


 ダラリと垂れた銀の糸は濃厚に交わったことを如実に表していた。


「もう、むり……っ!」

「鼻を使えよ」

「そんなのいきなりわからないよ!」


 蒸気した頬で涙目になって睨み付けても逆効果だった。
 再びぎゅうっと抱きしめられる。突然蜜のように甘い一面を見せられ、杏葉の心臓は狂ったリズムで鼓動を刻んでいる。


「だって初めてだから!わかるわけないじゃないっ」

「――ふふっ」

「笑わないでよ!!」


 恥ずかしくて泣きそうになり、布団を被って顔を隠そうとするが壱護によって剥ぎ取られてしまう。


「やっぱり杏葉はすました顔してるより、馬鹿みたいに笑ったり泣いてる方がいいな」

「それ褒めてるの!?」

「褒めてるだろ」

「〜〜っっ」


 意地悪だけど色気たっぷりに杏葉を見下ろす壱護に、それでもときめいてしまうことが憎らしい。

 壱護の前では仮面を被らなくても良い。
 仮面を被った自分より、ありのままの自分の方が良いと言ってくれる彼のことが悔しい程に大好きだと思った。


「好き……」
「知ってる」
「!?」
「バレバレなんだよ」


 そう言って壱護は何度目かのキスを落とす。

 二人の間に隔たりはもうなかった。
 仮面夫婦だった二人は互いに仮面を剥ぎ取って、裸のままで抱きしめ合う。
 愛し合う本当の夫婦として――。


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