嘘からはじまる恋のデッサン
「寒いな……」

制服のブレザーは着ているものの、家を飛び出す際、いつも着ている紺色のコートを忘れてきてしまった。

「あーあ……。コートさえあったらポケットにお財布いれてたのに。あったかい飲み物も買えないや……」

私はベンチの上で膝を抱えて小さくなると、雲一つない夜空を見上げた。今日は雲がほとんどない星日和(ほしびより)だ。

「星、ちゃんと見るのも久しぶりだな……」

うちの両親は天体観測が好きで大学時代、天文サークルで知り合ったそうだ。そんな星好きの両親に連れられて、幼い頃はよく星を眺めに出かけたことをふいに思い出す。

今は十二月。私はオリオン座の中央に仲良くならんだ三つ星をじっと見つめた。

よく笑う母と優しい父と私。

「三つ星みたいに……仲良しだったのに」

なかなか子供ができなかった両親にとって、待望の我が子だった私は本当に愛情たっぷりに育てて貰っていたと思う。幼い頃の記憶は幸せなものばかりだから。

でもいつからだろう。
考えても考えてもわからない。
ただ両親が自分に向けてくれていた愛情は憎みあい言い争う中で歪んで姿カタチを変えてしまった。

二人とも大好きだったのに──。

家で私にどちらかを選べと迫る恐ろしい表情の両親を思い出して、私は唇を噛み締めると膝の上に両腕を重ねて顔を突っ伏した。


──その時だった。

「……マサルか?」

(え……っ)

聞いたことのない少し高めの男性の声が背後から聞こえて私はビクンと身体を震わせた。

そして恐る恐るその声に振り返ると私はすぐに声を失った。
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