嘘からはじまる恋のデッサン
「マサル……落ち着いた?」
私は俊哉から貸してもらった水色のハンカチを俊哉の大きな手のひらに返しながら小さく口を開いた。
「優です」
「ん?」
「私の名前、春野優です。優は優しい一字です」
「そっか。そうなんだね、いい名前だ。えっとちなみに僕の本名は神代俊哉。神様の神に、代行で神代って読むんだ」
「あ……だから文字入れ替えてシロクマなんだ」
「そ。マサ……あ、いや優の名前の付け方と似てるな」
「ほんとだ」
私たちは顔を見合わせるとふふっと笑い合った。
そして俊哉がかけている黒縁メガネを押さえてから私を真っすぐに見つめた。
「実はね……僕も優と同じで家出したことがあったのを思い出した。ちょうど高三のときかな」
「え? そうなの?」
「うん。僕の家はちょっと他の普通って呼ばれる家と違ってね、母親と呼ぶ人とは血が繋がってなかったから」
俊哉は義理の母との関係がうまくいかなかったこと。やがて生まれた年の離れた弟が出来てから家で疎外感を味わっていたことを淡々と私に話した。私は黙って聞いていただけだったけど、時折横目に見た俊哉の横顔は少しだけ寂しそうに見えた。
「……あまり聞いていて楽しい話じゃなかったね。ごめん」
私は黙ったまま首を振った。俊哉はそんな私を見ながら頷くとしばらく黙ったまま夜空を見上げた。
どのくらいそうしてただろうか。
「……さっきの優のご両親の話だけど……大人になればなるほど気づかないうちに自分勝手になってしまうんだよ、というよりも大人であろうとするが故に間違えてしまうのかもしれないね。大人っていう固定概念で、いつの間にか窮屈で偏った枠に自分を当てはめて、まるで自分のことが全て正しいなんて思ったり、時に意図せず自分の意見を優先するが故に誰かを傷つけてしまったり」
「パパもママも本当に自分勝手なの。私の為っていうなら……どうして仲良くしてくれないんだろうって」
「夫婦の問題は難しいよ。僕の話で申し訳ないけど……うちも離婚して再婚だったから」
「そうなの? 俊哉先生は離婚も再婚も反対しなかったの?」
私は俊哉から貸してもらった水色のハンカチを俊哉の大きな手のひらに返しながら小さく口を開いた。
「優です」
「ん?」
「私の名前、春野優です。優は優しい一字です」
「そっか。そうなんだね、いい名前だ。えっとちなみに僕の本名は神代俊哉。神様の神に、代行で神代って読むんだ」
「あ……だから文字入れ替えてシロクマなんだ」
「そ。マサ……あ、いや優の名前の付け方と似てるな」
「ほんとだ」
私たちは顔を見合わせるとふふっと笑い合った。
そして俊哉がかけている黒縁メガネを押さえてから私を真っすぐに見つめた。
「実はね……僕も優と同じで家出したことがあったのを思い出した。ちょうど高三のときかな」
「え? そうなの?」
「うん。僕の家はちょっと他の普通って呼ばれる家と違ってね、母親と呼ぶ人とは血が繋がってなかったから」
俊哉は義理の母との関係がうまくいかなかったこと。やがて生まれた年の離れた弟が出来てから家で疎外感を味わっていたことを淡々と私に話した。私は黙って聞いていただけだったけど、時折横目に見た俊哉の横顔は少しだけ寂しそうに見えた。
「……あまり聞いていて楽しい話じゃなかったね。ごめん」
私は黙ったまま首を振った。俊哉はそんな私を見ながら頷くとしばらく黙ったまま夜空を見上げた。
どのくらいそうしてただろうか。
「……さっきの優のご両親の話だけど……大人になればなるほど気づかないうちに自分勝手になってしまうんだよ、というよりも大人であろうとするが故に間違えてしまうのかもしれないね。大人っていう固定概念で、いつの間にか窮屈で偏った枠に自分を当てはめて、まるで自分のことが全て正しいなんて思ったり、時に意図せず自分の意見を優先するが故に誰かを傷つけてしまったり」
「パパもママも本当に自分勝手なの。私の為っていうなら……どうして仲良くしてくれないんだろうって」
「夫婦の問題は難しいよ。僕の話で申し訳ないけど……うちも離婚して再婚だったから」
「そうなの? 俊哉先生は離婚も再婚も反対しなかったの?」