嘘からはじまる恋のデッサン
「そうだね……反対してたらなにか変わってたかなって思うことはあるけどね。でも金銭的な事情から僕を手放した母親とはもうずっと会えてないし、向こうから連絡もないよ。本当かどうかわからないけど父親が言うには母親も再婚していまは新しい家族と仲良く暮らしてるみたいだしね……」

「寂しく……なかった?」

自分の寂しさは結局のところ自分にしかわからない。けれど寂しさに形があるのなら、その寂しさの端っこにある傷ついた部分に一緒に絆創膏を貼ってあげることはできるのかもしれないな、なんて思った。

「今思えば寂しかったんだろうね……だからあのサイトを立ち上げたんだ……誰かの『寂しい』を落とせる場所と『寂しい』を聞いてあげる場所を作ってあげたくて……あの頃の僕のために」

「…………」

全く同じ種類の痛みはないけれど、似たような種類の痛みなら互いに寄り添い、心の中の靄を吐き出すことで、その質量をほんの少しだけ軽くすることができるかもしれない。

「先生のおかげで……私は救われました……『寂しい』をちゃんと落とせたから……」

「優はやっぱり優しいね」

俊哉はそう言うと唇を湿らせてから再び口を開く。

「……あの頃の僕はずっと黙ってることが一番良いんだって思っててさ、自分が我慢すればきっと誰も傷つかないし、いつかきっと元通りになるって思ってた。でも結局……心の中は言葉にしなきゃ誰にもわかって貰えないし、言わなきゃ気づかないんだよね……って、大人と呼ばれるようになって気づいたんだけどね」

俊哉は私の目を見ながら切長の目を優しく細めた。
 
「優。優は優しい。それはすごく素敵なことだけど……もっと自分のことも優しくしてあげて欲しい。もっともっと心を大切にしてあげて欲しい」

「心を大切に……?」

「うん……それにきっと……お父さんもお母さんも優のことが大事じゃない訳じゃないと僕は思うよ。大人だってちゃんとありのまま心を伝えられる訳じゃないと思うし、心を伝えるのが得意な人も苦手な人だっていると思うから……」

「そうかな……パパもママも私のことなんて……どうでもいいのかなって」

その時だった──スカートの中のスマホが震える。すぐにスマホを取り出せば液晶画面には『ママ』と浮かんでいた。

「優、出たら?」

俊哉はそう言ってくれたけど私は首を振った。

そして今度は続けざまに液晶画面には『パパ』の文字が浮かぶ。何十コールも震えて、留守電に切り替わると諦めたように電話は切れた。

「何よ……いっつもほったらかしのくせに……」

隣に俊哉がいるからそう口に出したが、両親がちゃんと私のことを心配してくれていることにほっとした。
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