嘘からはじまる恋のデッサン
ようやく三十分程かかって、ひと通り俊哉を描き終わった私がふぅっと息を吐き出せば、俊哉とふいに目があって俊哉があっという顔をした。

「先生?」

「あ、いや、そのモデルって滅多にしないから。ていうかしたことないから。思ったより恥ずかしいな。もう終わりそう?」

「うん、もうちょっと。陰影つけたら完成なんで」

私がふっと笑うと俊哉が恥ずかしそうに頭を掻いた。

私は消しゴムで鉛筆の線をぼかしながら指の腹で摩って、肌のグラデーションを立体化していく。この瞬間が絵を描いていて私が一番好きな瞬間だ。自分の中から命を生み出して、吹き込んでいくような心地よい感覚が芽生えていく。私は最後に俊哉の唇の陰影をつけ終わると鉛筆を置いた。

「先生っ! できた!」

「お、どれどれ?」

俊哉がすぐに私からスケッチブックを受け取るとじっと覗き込んだ。

少しだけ間があった。その間が何を意味するのか分からなくて、私はそわそわしてしまう。他人との関りが苦手な私は美術部に入っておらず美術の先生に添削してもらうのは初めてだった。 

「……あ、やっぱ先生から見たらイマイチ?だよね」

無言の空間に耐え切れず先に声を発した私に向かって、俊哉が大きく首を振った。

「違うよっ! すげぇな! 優!」

切長の目を子供みたいにキラキラさせて目尻を下げながら俊哉が笑った。

「……ちゃんと心が乗っかってる! 命が入ってんだよ!……優、凄いよ!」

「あ、ありがとう……」

いつの間にか俊哉がタメ口になってることに可笑しくなったのと、子供みたいに興奮しながら私の絵を褒めてくれたことがすごく嬉しかった。

大きくなってから親にも誰にもちゃんと褒められたことなんて一度もなかった気がするから。

「あ……ほんとごめん。つい良い作品だったから興奮したけど……大人気なかった。一瞬、教師の立場忘れてたし、そもそもこれ僕の顔だし」

俊哉が恥ずかしそうに笑って、私もつられて大きな口を開けて笑った。 

「ええっと……じゃあ優……そろそろ帰ろうか。途中まで送るから」

「あ、うん」

夢中で描いていて時間を忘れていたが、公園の背の高い時計の針は二十一時を回っている。

俊哉はスケッチブックをさっと鞄に仕舞った。
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