嘘からはじまる恋のデッサン
「あの、俊哉先生」

「どうした?」

「先生また会える? また絵見てくれる?」

俊哉はすぐに眉を下げた。

「うーん、会うのは今日で最後かな。僕は教師だからね。これも所謂世間でいう、大人の事情ってヤツだけど」

「じゃあシロクマ先生のメールは? 答えてくれる?」

「そうだな。まさか優が年齢を偽ってたとは思わなかったから本当はダメだけどね、聞かなかったことにするよ」

「ありがとう」

「『寂しい』はいつでも落として構わないから。でもね、……家出は今日で最後にしてもらえたら、教師の身としては安心するだけどね」

俊哉が確認するように私の目を覗き込んだ。その真剣な確かめるような視線に心臓がとくんと跳ねた。

「……わかった。家出したくなったら、家出する前に『寂しい』を書き込むから」

「うん、なるべくすぐ返事する。あと……ご両親とも一度優の思ってることちゃんと言葉にしてみるんだよ。僕みたいに後悔しないように」

「そうする」

「うん、えらいね」

そして私たちは月あかりの下を並んで歩いていく。背の高い俊哉の影を見ながら私はずっとこのまま家につかなきゃいいのになんて邪な思いが何度もよぎった。


「あ、先生。あそこだから」

私は自宅の手前で足を止めると羽織っていた俊哉のスーツのジャケットを脱いで畳んでから返した。
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