嘘からはじまる恋のデッサン
それから私はどんなに不安な夜も自分に負けそうになる夜も俊哉からの最後のメッセージをお守りに、必死に机に向かう日々を繰り返した。


けれど……人間、そう上手くはいかない。苦手な英語は絵を描く時間を削っても睡眠時間を削ってももなかなか学力が伸びず、私が途方に暮れていたとき、手を差し伸べてくれたのは長谷川さんだった。長谷川さんとは私がクリスマス会の栞の絵を描いたことをきっかけにできた初めての友達だ。

そんな長谷川さんから実は帰国子女で英語が堪能だと聞いたときは、私は長谷川さんがミステリー小説好きだと知った時よりも驚いた。

そして迎えた卒業式では別れがつらくて二人で沢山泣いて目を腫らしたのは、今でもいい思い出だ。

※※

(いよいよだなぁ……)

私は少し背伸びして買ったシャツワンピースにカーディガンを羽織り、今から始まる大学での初めての美術の講義に胸を高鳴らせていた。

教室の窓からは遅咲きの桜が春風にのって、ふわりふわりと舞い込んでくる。

(まさか、合格できるなんて)
 
そう。今春──私が入学したのは俊哉から教えてもらった第一志望の〇△芸術大学だ。

そして、私がこんなにも胸を高鳴らせているのは講義が楽しみなのも勿論あるが、入学する前に貰った資料で私はある名前を見つけたから。

その名前を目にした時は、まるで奇跡のような出来事に心が震えた。

(あー……どきどきする……)

私は騒がしい教室の片隅で何度も深呼吸を繰り返す。

その時、手に持っていたスマホにメッセージが入って身体がびくんと震えた。
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