嘘からはじまる恋のデッサン
──『ねぇ、優。彼には会えた?』
メッセージを送ってきたのは長谷川さんこと純菜だ。自他ともに認める親友の私たちは今や互いを名前で呼び合っている。
『もうっ、まだだよ! 純菜のせいで急にスマホ震えてびっくりしたじゃん』
──「笑! ごめんごめん。つい優の彼のことが気になって、また週末ランチの時、報告宜しく』
私はおどけたような純菜からのLINEにOKのスタンプで返事をした。
そして、緊張を和らげるようにいつも持ち歩いているスケッチブックを鞄から取り出すと、ぱらりと開けた。そこには何枚も同じ男性の模写が繰り返しデッサンしてある。
またいつかもう一度会いたくて、忘れたくなくて、私は記憶を頼りにあの夜の彼を何度も何度もデッサンし続けていたのだ。
──ガラリと扉の開く音がして、私は予想していたにも関わらず心臓が大きく飛び跳ねる。
見れば見覚えのある長身のスーツ姿の男性が颯爽と教室に入ってくる。
「皆さん、お待たせしました。今年度、美術でデッサン科目を担当させていただきます。講師の神代俊哉です」
俊哉は白いボードに黒のマジックでサラサラと名前を書くと、「くましろしゅんや」とフリガナを振った。更にその横に見たことのある可愛らしいシロクマの絵を書くと、俊哉は名簿を確認しながら生徒一人一人の名前を呼んでいく。
そして──「春野優」
そう呼んでから俊哉が私を見て大きく目を見開いた。
「神代先生、優です」
「あ!えっと……ごめん。春野優さん、だね」
俊哉は私をじっと見ると、そのあと恥ずかしそうに頭を掻きながら目尻を下げて笑った。
その笑顔があの夜と同じなことにほっとして、それと同時に自分の心の中のモノがゆっくり形を変えていくのがわかった。それが何と呼べるモノなのかまだわからないけれど、桜の花びらにによく似た淡く切ない感情が私の中に小さく芽生えて膨らんでいく。
きっとこれから私はまた貴方に恋をするんだろう。あの日からずっと忘れられなかった。
──真夜中の嘘から始まった、私の初めての恋を。
メッセージを送ってきたのは長谷川さんこと純菜だ。自他ともに認める親友の私たちは今や互いを名前で呼び合っている。
『もうっ、まだだよ! 純菜のせいで急にスマホ震えてびっくりしたじゃん』
──「笑! ごめんごめん。つい優の彼のことが気になって、また週末ランチの時、報告宜しく』
私はおどけたような純菜からのLINEにOKのスタンプで返事をした。
そして、緊張を和らげるようにいつも持ち歩いているスケッチブックを鞄から取り出すと、ぱらりと開けた。そこには何枚も同じ男性の模写が繰り返しデッサンしてある。
またいつかもう一度会いたくて、忘れたくなくて、私は記憶を頼りにあの夜の彼を何度も何度もデッサンし続けていたのだ。
──ガラリと扉の開く音がして、私は予想していたにも関わらず心臓が大きく飛び跳ねる。
見れば見覚えのある長身のスーツ姿の男性が颯爽と教室に入ってくる。
「皆さん、お待たせしました。今年度、美術でデッサン科目を担当させていただきます。講師の神代俊哉です」
俊哉は白いボードに黒のマジックでサラサラと名前を書くと、「くましろしゅんや」とフリガナを振った。更にその横に見たことのある可愛らしいシロクマの絵を書くと、俊哉は名簿を確認しながら生徒一人一人の名前を呼んでいく。
そして──「春野優」
そう呼んでから俊哉が私を見て大きく目を見開いた。
「神代先生、優です」
「あ!えっと……ごめん。春野優さん、だね」
俊哉は私をじっと見ると、そのあと恥ずかしそうに頭を掻きながら目尻を下げて笑った。
その笑顔があの夜と同じなことにほっとして、それと同時に自分の心の中のモノがゆっくり形を変えていくのがわかった。それが何と呼べるモノなのかまだわからないけれど、桜の花びらにによく似た淡く切ない感情が私の中に小さく芽生えて膨らんでいく。
きっとこれから私はまた貴方に恋をするんだろう。あの日からずっと忘れられなかった。
──真夜中の嘘から始まった、私の初めての恋を。