名ばかりの妻なのに、孤高の脳外科医の最愛に捕まりました~契約婚の旦那様に甘く独占されています~【極甘婚シリーズ】
國治が目覚めて少ししてからのことだ。
事務長から頼まれ西棟まで書類を届けに行った際、祐飛と純華が中庭を一緒に歩いている場面に遭遇したことがある。
遠目からは二人が何を話しているのかわからなかったが、祐飛が純華を見つめるその瞳には身に覚えがあった。
雛未は声にならない悲鳴をあげた。
(やめて……!)
雛未を見つめる時と同じ優しい眼差しで、純華を見ないで欲しかった。
口の端だけを上げるあの不器用で愛おしい笑みを純華に向けないで欲しかった。
雛未はその場から逃げるように立ち去った。純華が祐飛のそばにいるところをそれ以上見ていられなかった。
代用品の分際で純華に嫉妬心を向けるなど、許されないことだ。
雛未の心は決して認めたがらなかった。
――本物には敵わない。
どんなに技術が発達しようと、ガラス玉は本物のダイヤモンドには勝てないのだ。
純華へ向ける愛情のおこぼれをもらえる今の現状を甘んじて受け入れ、祐飛の名ばかり妻を続ける道だってあるのかもしれない。
けれど、雛未には耐えられそうもない。
祐飛を好きだと自覚してしまった今だからこそ、何食わぬ顔で名ばかりの妻を演じられない。
雛未の心は早くも限界を迎えようとしていた。