名ばかりの妻ですが、無愛想なドクターに愛されているようです。

「特別室に入れるのは患者本人とその家族、担当医師と専任の看護師だけだ。たとえベリが丘病院に勤務していても、特別室には簡単に出入りできない。通常の病棟とそもそも管理方法が異なるからだ」
 
 つまり、外来患者や面会者に紛れて院内に忍び込んでも、特別室まで辿り着くのはほぼ不可能ということだ。
 祐飛が示唆したように若狭議員が特別室に入院していたとしても、どう足掻いたって面会できる手立てはないのだ。

「そうですか……。教えていただいて、ありがとうございました」

 今度こそ諦めがついた雛未は、有益な情報をもたらしてくれた祐飛に礼を言い、深々と頭を下げた。
 これ以上、赤の他人の祐飛に迷惑をかけるわけにはいかない。
 雛未が教えられた道順通りに総合棟へ向かおうとした、その瞬間のことだった。

「どうしても特別室に入りたいと言うのなら……ひとつだけ方法がある」

 雛未は伏せていた目をパッと開き、祐飛の次の言葉を固唾を飲んで待ち望んだ。
 
「俺と結婚しろ」

 熱を宿した怜悧な瞳に射抜かれた雛未は、耳を疑った。


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