名ばかりの妻ですが、無愛想なドクターに愛されているようです。
2.名ばかり婚の成立

「結婚……?」
「そうだ」

 突拍子もない提案に唖然としながら聞き返すと、祐飛は大真面目な顔で頷いた。
 
「特別室には専用のアテンド職員が常駐している。アテンド職員には病院に勤務する医師の身内を起用する決まりだ。身内の方が情報漏洩のリスクが低いからだ」

 雛未はなるほどと感心した。
 特別室に勤務するにあたって最も難しいのは情報の管理だ。
 医師の身内を起用すれば、紹介者の院内での立場を悪くしないために一層気を配るだろうし、抑止力のひとつとしてはうってつけだ。
 
「俺と結婚すれば、アテンド職員として雇われる条件を満たすことができる」
「本気……なんですか?」

 理屈はわかったが、正直バカげているとしか思えなかった。
 今日会ったばかりの他人のために結婚なんて、正気なのか疑ってしまう。

「結婚指輪をしていないということは、未婚だろう?ひとりでここにくるくらいだ。頼れる異性もいない。違うか?」

 雛未はかあっと頬を赤らめ、さっと左手を背後に隠した。
 祐飛の言う通り、雛未は結婚もしていないし、長らく彼氏と呼べる男性もいなかった。
 恥じることでもないのに、なぜか居心地が悪い。

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