名ばかりの妻なのに、孤高の脳外科医の最愛に捕まりました~契約婚の旦那様に甘く独占されています~【極甘婚シリーズ】

『どうして雛未にはお父さんがいないの?』

 子供らしい素朴な疑問だった。
 幼稚園に通うようになり交友関係が広がるにつれ、雛未は自分の家庭が周りの友達と少し違うこと気がついてしまった。
 友達には当たり前のように『父親』という存在がいて、雛未は少し羨ましくなってしまったのだ。

『ごめんね、雛未』
 
 あの時、母は泣きながら雛未を抱きしめてくれた。
 母の涙を見たのは後にも先にもあの一度きりだ。
 母を泣かせてしまった罪悪感から、雛未はその日以来父親に関する話題を意識的に避けるようになった。
 ――あの涙の理由を今一度考える時がやって来たのだ。

(……知りたい)

 ――雛未の父親は若狭國治なのか。
 ――なぜ母は雛未をひとりで産んだのか。

 秘密を暴くのは母の本意ではないかもしれない。
 二人は納得の上で別れを選んだのかもしれない。
 しかし、すべて引っくるめて、雛未は知るべきなのだ。
 そのためには……。

 雛未はベンチから立ち上がり、高台にあるベリが丘病院の方角を見据えたのだった。

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