名ばかりの妻なのに、孤高の脳外科医の最愛に捕まりました~契約婚の旦那様に甘く独占されています~【極甘婚シリーズ】
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「遅かったな」
「す、すみません!迷ってしまって……!」
待ち合わせ場所の中庭に着いた時には、約束の十七時を十五分も過ぎていた。
時間に余裕があったにも関わらず、またしても雛未は敷地の中で迷子になってしまったのだ。
気づいた時には待ち合わせの時間を過ぎており、雛未は全速力で敷地内を駆け回り、やっとの思いで待ち合わせの場所まで辿り着いたのだった。
「もう来ないかと思った」
仕事終わりなのか祐飛は白衣を着ておらず、シャツの上から春らしい薄手のジャケットを羽織っていた。
(ああ、そうか……)
雛未の住んでいた田舎とは違い、ベリが丘には一足早く春がやって来ていた。
季節は巡る。否応がなしに。
母が見ることが叶わなかった櫻坂の桜も、あと数週間もすれば、一片も残らず散っていくだろう。
苦い記憶も、幸せな思い出も、春風のように瞬く間に消えてしまう。
だからこそ、すべてを忘れてしまう前に、真相を解き明かさなくてはいけない。
雛未は息を整えると、祐飛を仰ぎ見た。
「あの!返事をする前にひとつだけ聞かせてください!」
「なんだ?」
「先生にとって、この結婚にはメリットがあるんですか?」
見ず知らずの他人と結婚するのは祐飛も同じだ。
単なる同情心で大きな借りを作るわけにはいかない。
祐飛はあからさまに大きなため息をつくと、面倒臭そうに口を開いた。