名ばかりの妻なのに、孤高の脳外科医の最愛に捕まりました~契約婚の旦那様に甘く独占されています~【極甘婚シリーズ】
「お手数をおかけしてすみません」
「いいえ!この簡易ベッド、畳み方が少し難しいですよね」
雛未は立った簡易ベッドの脇に立ち、枕元の裏にあるスイッチを押しながら、二つに折り畳んだ。
午前中、触らせてもらったが少しコツがいる。
ストッパーを外すと、キャスターを転がし移動させていく。
備えつけのスペースにしまう際に、チラッとベッドに目をやる。
(この人が若狭國治……)
ごま塩のような、白髪混じりの短髪。
おでこに深く刻まれた皺が、彼が培ってきた年月を世に知らしめていた。
写真よりも随分痩せ衰えた身体には点滴が繋がれ、口にはチューブが入れられていた。
……そうやって、よそ見をしているのがよくなかった。
「うわっ!」
段差につまづいた雛未が小さく叫ぶと同時に、簡易ベッドからガタン!と大きな音が立つ。
「すみません!」
かなり大きな音を立てたにもかかわらず、ベッドで寝ている若狭議員はピクリとも動かなかった。
純華は謝る雛未に静かに微笑んだ。
「大丈夫ですよ、雛未さん。運ばれてからずっと寝たきりで、まだ一度も目を覚ましていないんです。手術は成功したはずなんですけどね」
純華の話を聞いて、ドクンドクンと心臓が早鐘を打つ。
雛未は震える唇でかろうじてこう口にした。
「また何かあったら遠慮なく呼んでください」