名ばかりの妻ですが、無愛想なドクターに愛されているようです。
(続報がなかったはずね)
病室から出た雛未は、廊下を歩きながら物思いに耽っていた。
本会議で倒れてから一ヶ月近く経つというのに、若狭議員は未だに眠り続けていた。
聞きたいことも、言いたいことも、山ほどあったはずなのに、あの状態の本人を目の前にすると、ほとんど消え失せてしまった。
「雛未?」
名前を呼ばれ我に返ると、廊下の反対側から祐飛がやって来ていた。
若狭議員の主治医は祐飛だ。診察に訪れたのかもしれない。
雛未は動揺を悟られまいと、懸命に笑顔を顔に貼り付けた。
「純華さんに頼まれて、簡易ベッドをしまってきました。今からカウンターに戻るところです」
約束は守っていると言外に主張し、会釈をして脇をすり抜けようとするも、祐飛に腕を掴まれ引き留められてしまった。
「……見たのか?」
祐飛は『何を』とは言わなかったし、雛未もあえて答えなかった。
若狭議員が生死の境をさまよっている姿を目の当たりにして、狼狽えていることを知られたくない。
「平気か?」
「何のことでしょう?」
雛未は何のことかわからないと、とぼけてみせた。
……しかし、祐飛は何もかもお見通しだった。