名ばかりの妻ですが、無愛想なドクターに愛されているようです。


「強がるな」

 グイと引き寄せられ、胸板に顔を無理やり押しつけられ、雛未は驚きで目を見開いた。
 祐飛の白衣からは消毒液の独特のツンとした匂いがした。

「事前に教えてやれなくて悪かった」
「祐飛さんが謝ることじゃ……」

 祐飛が若狭議員の様子を雛未に伝えられないのは無理もない。彼に落ち度はないし、責める気にもならない。
 それでも、祐飛は雛未を離そうとしなかった。
 もう平気だと突き放せばいいのに、なぜか出来なかった。

(男の人に慰めてもらうなんて、何年振りだろう……)

 どれくらい……そうやって祐飛に身体を預けていただろうか。
 
「祐飛くん?」

 背後から唐突に声がしてきて、雛未は弾かれたように祐飛から距離を取った。

「今、行く」

 祐飛は純華の声掛けに応えると、雛未を残して病室へ入っていった。

(抱き合っているところを見られた!)

 あまりの恥ずかしさで、かあっと全身が燃えるように熱くなった。
 しかし、不思議なことに、胸に渦巻いていた不安はどこかへ消えていたのだった。

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