名ばかりの妻ですが、無愛想なドクターに愛されているようです。
4.華麗なる一族
「ん……」

 その日、雛未は耳障りなアラーム音で目を覚ました。寝ぼけ眼でサイドテーブルに置いたスマホを探り当て、不快な警告音をようやく止める。
 
「祐飛さん……?」

 昨夜一緒にベッドへ雪崩れこんだ祐飛の姿が見当たらない。
 ガウンを羽織り、手元にあるスマホをもう一度覗き込むと、祐飛からメッセージが届いていた。

『先に行く』

 祐飛らしい必要最低限な文字の羅列が送信されたのは朝の五時過ぎのこと。

(全然、気がつかなかった……)

 雛未は祐飛が出かけたことはおろか、オンコールがあったことさえ気がつかず、ぐっすりと寝こけていた。
 昨夜も祐飛の腕の中に閉じ込められるようにして寝ていたというのに、この有様だ。

 ――二人が結婚してから早くも二ヶ月が経とうとしていた。

 二人の結婚生活は、当初雛未が思い描いていたものとはかけ離れている。
 配偶者という立場を借りるだけのつもりだったのに、祐飛は忙しい合間を縫うようにして、雛未を度々ベッドへ連れ込んだ。
 キスこそしないものの、その行為は激しさを増しつつある。

「あ、またついてる……」

 鎖骨の下あたりにキスマークがついていて、こそばやゆい気持ちにさせられる。雛未の身体には赤い花のような痣がいくつもある。薄れかけたものもあれば、昨夜つけたばかりの鮮やかなものまで。
 キスを禁じている反動なのか、祐飛は雛未の柔肌に吸いつき、頻繁に赤い痕を散らした。

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