名ばかりの妻ですが、無愛想なドクターに愛されているようです。

「困るなあー。もう……」

 口にすることははばかられるが、これなら普通にキスをされた方がいくらかマシだ。
 しかし、今更『やっぱりキスしていいですよ』と発言を訂正するのも変だ。

(って、待て待て!絶対おかしい!)

 自分がおかしな考えに陥っているとはたと気がつき、思わず頭を抱える。
 今や雛未は夜の営みがあるのを当たり前のように受け入れていた。
 これでも、拒絶しようと奮闘したことはあったのだが……。
 
『雛未』

 熱を孕んだ瞳で見つめられ、早く繋がりたいとねだるように身体に口づけられると、抵抗する気が失せてしまうのだ。
 結果として、雛未と祐飛は週に一度は同じベッドで夜を過ごすようになった。

(こんなに押しに弱い性格だったかな……?)

 無愛想で冷たい印象のある祐飛だが、雛未の身体を欲しがる彼はいつも切羽詰まっていた。
 昨夜のことを思い出すだけで、身体の奥が甘く疼いていく。
 いつしか雛未は祐飛が帰って来ると、今夜はどんな風にベッドまで連れて行かれるのかと気もそぞろになった。
 まるでひとつになるのを自ら望んでいるみたいだ。

「……支度しよ」

 雛未は煩悩を振り払うために、首を横に振った。
 ベッドから降り、朝の支度に忙殺されると、否応がなしに祐飛以外のことで頭がいっぱいになっていった。

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