名ばかりの妻なのに、孤高の脳外科医の最愛に捕まりました~契約婚の旦那様に甘く独占されています~【極甘婚シリーズ】
◇
「雛未さん、すっかり慣れましたね」
「本当に?」
「いやあ、もう!ベテランって感じですよ!」
茉莉は雛未を褒めちぎり、音を立てぬよう拍手を送った。
「茉莉さんのおかげだよ」
「えー?そんなこと……ありますかねえ……?」
冗談めかして手柄を主張する茉莉に、自然と笑みが溢れていく。
特別室のカウンターに座り始めてから、一ヶ月以上が経ち、研修期間が終わった雛未はようやく一人前として扱われるようになった。
シフトにも組み込んでもらい、週に四日から五日は特別室のカウンターで勤務している。
アテンド職員は他にもいるけれど、同じような勤務日数の茉莉とは必然的にシフトが重なることが多い。
カウンターに座る時はいつも緊張するけれど、茉莉が一緒の日は楽しい気分の方が勝る。
「あ、次の面会者がきたみたい」
雛未が明日退院する患者用の請求書を作成していると、来客を知らせるインターフォンが鳴った。
まもなく、専用エレベーターにのって、純華がやってきた。
「こんにちは」
「面会を希望される方の患者IDと予約番号を伺います」
「はい」
純華は慣れた調子で患者IDを読み上げ、予約番号が記載されたスマホの画面を雛未に見せた。
純華は三日と空けずに病室を訪れている。
ここしばらくは母親の若狭夫人や聖と一緒のことが続いていたが、今日はひとりだった。
「お帰りの際には面会者用のIDカードのご返却をお願いします」
「ありがとうございます」
雛未はカウンター越しにお辞儀をすると、病室へ向かう純華の背中を複雑な胸中で見送った。
寝たきりの父親を前にして、純華はいつも何を想っているのだろう。
素性を明かせない雛未は、彼女と同じ立場に立つことも、慰めの言葉ひとつかけてやることもできない。
……それが切なく、悲しい。