まどろみ3秒前

sleep 13


―夜が来た。


「おかえりー翠!」


お母さんは、優しい笑顔で私を家に迎えてくれた。見慣れてしまった心配の表情はない。


「料理苦手なんだけどね。今日は盛大に作りましたぁ~」


テーブルいっぱいに料理が並べられている。私の好きなものばかりだ。お父さんも累も、「うわあ」とどこか怪訝な目で見ている。


「に、肉ばっかり!太らす気じゃん」

「翠の好きなものが肉が多いんだよ」


お父さんも累も、私の反応にうんうんと頷いていた。


白ご飯、味噌汁、唐揚げ、ピザ、何故かポテトチップス…サラダの盛り付けもあるが、野菜は少ない。完全に太らす気でいるらしい。


「食べよう食べよう!いただきます」


何故かお母さんが箸を取って唐揚げを頬張る。


「美味しいね!!美味しいー!!」

「「「い、いただきます」」」


お父さんと累と私は、何から食べようかと迷いながら何秒も固まってしまう。それから、私は皿に乗るポテトチップスを手に取って口に入れる。


「ん、美味しいさすが」

「市販のやつだろそれ。最初に食べるもの間違ってんじゃん」


累に笑われて、私も笑ってしまった。


死んでたらこの瞬間はなかった。

辛い瞬間もあるけれど、ひとつひとつの瞬間のために、私は生きていたいな…
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