まどろみ3秒前


「笑ってばっかりで。今でも、私はあなたが嫌いです。そんな自分が嫌いで。まあ、死んでるんです、心がもう」


喜びも悲しみも、いつの間にか感じられなくなってしまった気がする。


「前、崩壊しそうな目が好きだとか言ってくれたけど…、よく、わかりません。あなたは、優しいし顔もいいから、もっと他の人が絶対いると思いますよ。私じゃなくても」


そう。私は顔もよくない。性格もよくない。その夢というものも、私じゃなくてもいいと思った。可愛くて優しい女子なら他にいる。


「全部どうでもよくなるし、だからもう私のことは……」


うるうるしてきた目をよそに、笑みを浮かべて、振り返ろうとする。その瞬間だった。


ぎゅっと、何かが私を包み込んでいた。



「え」



温かくて、それでも抱き締める力は強い。

何かが乗る感覚、私の首に回る腕、微かに感じる息、黒髪が私の頬をくすぐる。



「好き」



たった二文字の言葉。低くてまるで雨の声。



「翠さん」



この世界は、2人だけなように思えた。


雨の音は、私の心臓の音をかき消し去るように、強く強く、酷くなっていった。

降りやまない雨。一体この雨は、いつから降り続けていたんだろう―










< 71 / 426 >

この作品をシェア

pagetop