私と彼の溺愛練習帳
「なにか、とは」
「……居場所とか」
「雪音が知らせてないなら、俺が教えることはない」
「知ってるってことか」

 閃理は彼が雪音を呼び捨てにしたことにかちんときた。自分よりも親しそうにするなんて許せない。

「君も俺も、彼女を守れなかった。今度こそ、俺は彼女を守らなくてはならない」
 惣太の言葉に、閃理は歯をぎりっとかみしめた。
 守れないどころか、傷付けてしまった。

「彼女は少しずつ自分を立て直して、大きな節目にさしかかっている。君が現れたら彼女は自分を保てなくなるかもしれない」

 閃理は初めて会ったときの彼女を思い出す。張りつめた氷のようだった。それ以上張りつめたら自分の過負荷で割れてしまいそうな彼女。

「放っておいてあげて。君に彼女を支えるのは無理だ」
「無理じゃない!」
 閃理は惣太をにらみつける。突き放す言葉に屈するわけにはいかない。

「君は若い。別の女性を探せよ」
「あんたも年齢を口にするのか!」
 カッとなり、閃理は惣太のシャツの襟を掴み上げる。

「そういうところ、若さゆえかな」
 惣太は動揺もなく言い返す。
 閃理はぐっと言葉に詰まり、手を離した。

「君は彼女を愛していて金もあるみたいだが、それだけじゃダメなんだ」
「それだけじゃない」
「どうかな」
「あなたにはそれ以外ができるのか」

「……できなかったから別れることになった」
「だいたい、それ以外ってなんだよ」
「言葉にできないいろいろだよ」
「適当なこと言ってごまかすな」

「甘やかすだけが愛じゃないよ」
 惣太が言い、閃理は一瞬ひるむ。
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