私と彼の溺愛練習帳
「そっか」
 惣太の声は少し寂しそうだった。
「結果は教えてもらえる?」
「ちゃんと連絡するわ」
 そう言って、雪音は電話を切った。
 本当は一番に閃理に伝えたかった。
 見上げた空には、白い満月が微笑むように佇んでいた。

***

 ドローンのプログラミングを終えて、閃理は息をついた。
 他のドローン運用の会社と連携して一千機を使い、三千万円以上かかった企画の依頼だ。遅れも失敗も絶対に許されない。

「これで少しは時間が取れる」
 コーヒーを淹れて、スマホを取り出した。
 雪音からの着信はなかった。こちらの番号は拒否されている。
 ある電機メーカーの番号を検索し、閃理は電話をかけた。

***

 ビルを出た惣太は、閃理を見て顔をしかめた。
 元恋人である雪音の新しい恋人……そして、彼女を捨てた男。
 自分も同じポジションだが、それでも彼が雪音を捨てたことが許しがたかった。自分が幸せにできなかったから、なおさらかもしれない。

 胸にあるのはそれだけではない。彼は見た目も良く若くて自信にあふれ、実力も金もあるようだ。男としての嫉妬は否定できなかった。

 閃理から電話が来たのは夕方だ。会いたいと言われて、仕事が終わったあとならと了承した。
「なんの用だよ。会社にまで来て」
 惣太は自分の声が思ったより冷たいことに気が付いた。が、知ったことじゃない。雪音を傷付けるなら、彼もまた敵だ。

 雪音に言い訳はできなかった。雪音とホテルに行ったはずなのに起きたら愛鈴咲だった、そんな寝言を聞かされても忌々しいだろう。行為をした覚えはない。が、ほかの女とホテルに行った、その事実だけで充分に不誠実だ。

 そうしてさらに、誠実のありかたを間違えた。浮気を告白した直後に愛鈴咲とつきあうと宣言するなど、二重に雪音を傷つけてしまった。

「雪音さんのこと。なにか知らない?」
 閃理がたずねる。
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