私と彼の溺愛練習帳
それから、雪音はゆっくりと語った。
ジュスティンヌに会ったこと。彼女に言われたこと。
なんとも言えない衝動で家を出たこと。
惣太に紹介された工場で働き、連絡が来て母に会ったこと。
「閃理さんが作った画像、母に似ていたわ。あの画像が手掛かりになったの」
「役に立ったみたいでよかった」
閃理は微笑した。
連絡をくれた男性からは、画像を勝手にネットにあげたことを謝罪された。だが、おかげで情報を得られた。画像を見たナースが、前の勤め先にいた人に似ている、と連絡をくれたらしい。神奈川に住んでいたその人は、今は沖縄にいる。ネットがなければ繋がらない人だった。
ネットを精査し、それらしき事故の情報をくれた人もいたらしい。
そのほかにもさまざまな反応があったという。
彼は、悪い情報をシャットアウトしていい情報だけをくれた。優しさに胸が熱くなった。
彼には昨日のうちに、母に会えたことを報告した。彼は我がことのように喜んでくれた。
惣太にも水崎にも報告した。彼らもまた喜んでくれた。
赤の他人なのに、こんなに喜んでくれる人がいる。それもまた雪音の胸を熱くした。
雪音はそっと閃理を見た。
「閃理さんは貴族なの?」
「母がね。僕はただの日本人」
「だけど……」
「そうなるのが嫌で言ってなかったんだ」
雪音は思い出す。CM撮影に行った帰り、彼は僕だけを見て、と言っていた。
「わかった。私、あなただけを見る」
雪音が言うと、閃理はうれしそうに微笑んだ。
「ジュスティンヌさんのことも教えてくれる?」
「幼馴染だ。婚約は彼女が言っているだけで、僕は了承していない」
「だけど……背中のほくろの数を知っているかって言われたわ。あなたが寝そべる写真と一緒に」
「それ、僕じゃないよ。彼女とそんな関係になったことはない。顔は映ってた?」
「顔は……よく見えなかった。でも髪とか背格好とかが同じで」
「ほくろの数なんて出まかせだよ」
「すごい自信だったのに」
雪音は驚いた。
「そんな古典的なやつにやられたの?」
「古典って……だって」
雪音はもじもじと手を合わせた。