私と彼の溺愛練習帳
 ぶーん、とうなるような音が聞こえた。
 雪音の目にドローンが映った。中型のドローンだった。
「来てくれた……」

 ドローンは伶旺にまとわりつく。
「なんだこれ!」
 伶旺はふり払おうとするが、ドローンはすばしっこく逃れ、また近付く。

「あー、あー、聞こえる? 映像は撮ったよ。いつでも警察に行ける」
 閃理の声ではなかった。が、聞き覚えがある。

「くそ!」
 伶旺は雪音から離れ、叩き落とそうとする。が、ドローンは嘲笑うように舞い上がる。かと思えばまた降りてくる。
 雪音はその隙に逃げ出した。

 光のある方へ向かうと、電動キックスケーターで走る男性が見えた。
 閃理だ。
 彼はキックスケーターを放り出して駆け寄った。
 雪音は閃理にとびついた。閃理は雪音の後頭部に手をまわし、自身に押し付けるようにして抱きしめる。

「良かった、雪音さん」
 雪音はぎゅっと彼にしがみついた。

「あいつは今どこ?」
「あっちで、ドローンが」
 説明になっていなかったが、それだけで閃理には通じた。

「なら、大丈夫だ」
 なにが大丈夫なのか、さっぱり雪音にはわからない。
「僕のこと頼ってくれてうれしい」
 閃理は雪音の髪を撫でた。

「あいつ、ちゃんと懲りるようにしておくから」
「どうするの?」
 閃理は答えず、微笑して雪音の頭をなでた。
 外灯のせいなのか、彼の顔に落ちる影は不気味に濃かった。
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