初めての溺愛は雪の色 ~凍えるため息は湯けむりにほどけて~
「まだ、言ってない。朝も普通におはようのスタンプが来てた」
 通りすがりに聞いた噂話を思い出す。愛妻家でまじめなのに浮気をした男性の話だ。真面目でも浮気をするのだとしたら、蓬星だって、どうなのかわからない。

「まだグレーなんだから、真っ黒になるまでは信じてもいいんじゃない? と思ったけど、それもきついよね」
「うん……なにを信じていいのかわからない」
「来島部長の話を信じてるわけじゃないよね? あんなうさんくさいの」
「なんだかまったく嘘って感じもしなくて……」

「あんた、人が良すぎるのよ。だからいいように振り回されて」
「私は人がいいなんて思ったことないけど……」
「でもさ、来島部長も一生懸命なのかもしれない、なんて思って同情したんでしょ?」
「同情ってわけじゃないよ」

「きちんと本人と話をしないと。マンガなら、ここで聞くのがこわい、なんてやってこじれるのよ」
「マンガねえ……」
 順花の漫画好きはかまわないが、ちょいちょいマンガと現実を比較して話をするのが気になる。

「さらに、マンガならここからもうひと展開あるけどな」
「どんな?」
「もっと落ち込むこと」
「不吉なこと言わないで」
「でもその落ち込みがあるから最後が盛り上がるのよねー。ベタな展開だと裸の写真が送られてくるとか」
「やめてったら!」
 思わず声が大きくなってしまった。初美はハッとしてうつむく。

 申し訳無さそうに順花が謝る。
「ごめん、つい。マンガの話だからね」
「うん……。私もごめん」
 ブブ……と初美のスマホが振動した。
 テーブルの上のそれを見て、初美は不安に順花を見る。

「どうしたの?」
「知らない番号からメールが来たの」
 嫌な予感がした。
 つい先程、不吉なことを順花に言われたばかりだ。
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