初めての溺愛は雪の色 ~凍えるため息は湯けむりにほどけて~
「先輩、ひどいですう!」
 社員食堂で遭遇した瑚桃に、悲鳴のような声を上げられた。券売機でランチを選んでいたときのことだ。
 その日、初美はお弁当を作れなくて、仕方なく社員食堂に来た。
 瑚桃はいつも外にランチに行くのに、どうしてここにいるのか。
 初美はたじろぎ、逃げようとした。が、瑚桃は素早くその前に回り込む。

「蓬星さんをとって、次は貴斗さんまでとるんですかあ!?」
 大声で瑚桃は言う。
「なに言ってるの、誤解よ」
 初美はおろおろと言った。周りの目もある。こんなところでそんな大声で間違ったことを言われたくない。周囲はなにが起きているのか、興味津々で二人を見ている。

「貴斗さんに会いたいって言ったら、俺には初美がいるからって言われたんですよ!」
 よりによって瑚桃になんてこと言ってくれるんだ。
 初美は青ざめた。
「とにかく、誤解だから!」
 周りの目が気になって仕方なかった。なぜ瑚桃は気にならないのか。

「なんの騒ぎだ」
 貴斗の声がして、食堂がざわめいた。
「貴斗さん!」
 瑚桃が彼に抱きつく。
「やめてくれないか。一度食事に行っただけで、君とはそんな関係じゃない」
「えー!」
 周りからくすくすと笑う声が聞こえる。

「初美、行くぞ」
 貴斗は初美の肩を抱いて食堂を出た。
 それを見送り、瑚桃は息をつく。
 貴斗さんに先輩のことが好きだから協力してくれって言われたけど、けっこう順調そう。さっそうと現れて連れ出されるって、ポイント高いよね。

 前は貴斗さんに付き合いをほのめかされてその気になったけど、やっぱりあの人より蓬星さんのほうが好みだし。
 先輩が貴斗さんとくっついたら、蓬星さんは余るから私とくっつく。それで、計算はばっちり合うわ。
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