初めての溺愛は雪の色 ~凍えるため息は湯けむりにほどけて~
 ふいに風向きが変わった。
 蓬星の顔に雪がふりかかる。
 思わず目をそらした瞬間、貴斗が動いた。
 斧を捨て、初美を抱きかかえるようにして、スノーモービルを奪う。

「いやあ!」
 初美は暴れるが、貴斗の力のほうが強い。
「初美さん!」
 蓬星は手を伸ばす。初美もまた手を伸ばした。が、その手が触れるより早く、スノーモービルは発進した。

「くそ!」
 蓬星は吐き捨て、山小屋の倉庫に向かう。
 自分の持つ鍵束からその鍵を手に、開ける。

 倉庫にはスノーモービルが置かれていた。
 自動で点灯したライトを受けて、カウルがきらりと光る。
 整備はされているはずだが、果たして動くかどうか。
 エンジンをかけると、すんなりとスノーモービルは動いた。
 そのまま雪上を走らせる。
 
***

「離して!」
「大人しくしろ!」
 貴斗に怒鳴られ、初美ははっとした。暴れていたら振り落とされてしまう。いくら雪の上でも、落ちてしまっては命に関わるだろう。

 大人しくなった初美に、貴斗はにやりと笑う。
 観念したと思われたのはわかった。真相は違うが、初美はただ耐えた。
 蓬星が助けに来てくれた。眼の前で連れ去られたのを見た彼は、また助けに来てくれるだろう。行き違いを避けるためにも、今は耐えるべきだと思った。

 どうして貴斗は自分を連れて逃げ出したのだろう。
 そんなことを思うが、それよりも雪が痛かった。むき出しになっている顔に当たり、冷たいより痛い。

 それよりも。
 初美は貴斗に必死にしがみつく。
 貴斗は、いつ初美が邪魔だと気がつくだろう。
 初美の重量の分だけスピードも出ないはずだ。

 ふと後ろを見ると、また光が見えた。
「蓬星さん!?」
 思わず声を上げると、貴斗が振り向いた。
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