初めての溺愛は雪の色 ~凍えるため息は湯けむりにほどけて~
「……というわけで、前に決めた通り、人工大理石がいいと思うのですが」
「でもさあ、あんまりにもよくあるじゃん? それに人工大理石って傷つきやすいって聞いてさあ」
「天然よりは傷つきやすいですね。結局、樹脂なので」
 これって営業の仕事なんじゃないのかなあ。企画もこんなことするんだ。

「お嬢ちゃんはどう思う?」
 相手先の男性に聞かれて、初美は目を瞬いた。
 お嬢ちゃんって年じゃないのに。
 相手先は五十すぎに見えた。だから自分はまだまだお嬢ちゃんに見えてしまうのだろうか。半人前に見えるから言っているのだろうか。

「人工大理石のお風呂、いいと思います。表面は滑らかで、汚れがつきにくく落ちやすいです。長年使うものですから、お手入れのしやすさは大事です」
 過去データにそう載っていた。しかしこんなことはもう打ち合わせで彼も知っていることだろう。

「そう? 女性はお風呂が好きだし、やっぱり女性の意見は大事だよなあ」
「見た目も好きです。豪華に見えますし、あちこちで使われているから、安心感もあります」
 これは個人の感想だ。
「そっかあ」
 男性は腕組をして考え込む。
「初志貫徹、人工大理石にするかあ」
 男性の言葉に、蓬星はほっとした表情を見せた。



「疲れました?」
 取引先を出てしばらくすると、蓬星が聞いてきた。
 どきっとした。
「少し。外回りなんて初めてなので」
「急にすみません。でもあちらさんは女性に弱いから、来てくれて助かりました」
 そんな理由か、と驚いた。

「男性相手だとすごい強気で来るんですよ。女性がいるといいとこ見せたいらしくて大人しくなってくれるんです」
「お役に立てたならいいですけど……そういうのは仁木田さんのほうが良かったんじゃないですか?」
 彼女は男性受けがいい。

「いや……彼女は自由ですから」
 言葉を選んで彼は言った。
 つまり、空気が読めないってことだ。
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