初めての溺愛は雪の色 ~凍えるため息は湯けむりにほどけて~
 再び蓬星に唇を塞がれ、なにも言えない。
 今度は、なにかに急き立てられるような荒々しいキスだった。
 彼の手がブラウスをたくしあげ、ブラをずらす。その指で先端をなでられ、初美は思わず声をもらした。
「だめ……」
 初美は首を動かし、必死にキスを逃れた。
「こんなところで……」
「誰もいないよ」
 蓬星は初美の耳たぶを口にふくむ。
 びくっと初美が震えた。
「いや!」
 初美は必死に彼を押し返した。
 誰もいないとはいえ、ここは職場だ。もし万が一にでも人に見られたら、もう立ち直れない。
「……ごめん」
 蓬星は謝り、体を離した。
「しばらくプライベートで会ってないから、あなたが恋しくなってしまった」
 言われて、初美は赤くなってうつむく。
「よかったら今夜、うちに来てくれない?」
「……今夜はちょっと」
 初美は断った。急なお泊りの準備などなにもできていない。それに、今日はもう遅い。翌日のことを考えると家に帰りたかった。
「そっか……ごめん」
 蓬星はすぐに引き下がった。時計を見てため息を付く。
「もう10時近いね。帰ろう」
 彼に言われて帰り支度をした。一緒に会社を出て駅に向かうが、二人とも言葉は少なかった。



 断ってしまった。
 帰宅するための電車で揺られながら、初美はうつむく。
 駅を出ると、寒風が身を震わせた。
 電車の中は暖かかったのに。
 ……蓬星の腕の中は温かかったのに。
 思わずため息をつく。
 凍えるように白くなる息を見て、またため息をついた。
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