無一文男と相乗りしただけなのに、御曹司の執着愛が止まらない
4話 56本・密かな愛
○一週間後・コンビニ店内・菓子パン売り場(昼)

結実(剣滝さんのお宅に連れ込まれてから。彼に対する気持ちが変化した……ような気がする……)

 結実、自宅に連れ込まれ、ソファーに押し倒された時のことを思い出す。

結実(あのまま最後までしてたら……どうなってたんだろう……?)

 康と抱き合う姿を想像し、顔を真っ赤にする結実。
 邪念を打ち払う為、頭を左右に振る。

結実(何考えてるの、もう!)

 結実、品出しを再開。

結実(剣滝さんは不定期に、薔薇を持って私へ会いに来てくれる)

 結実、コンテナからパンを取り出し、棚に並べる。

結実(たまには私から、剣滝さんへ会いに行った方がいいんじゃ……?)

 結実が思考を巡らせていると、来客。
 出入り口の自動ドアが開き、左手に7本の赤薔薇を持った康が姿を見せる。

結実「いらっしゃいませ」

 どこかで声はするが、レジに姿が見えないことを知った康、結実の姿を探す。
 康が来たことに気づかず、結実は品出しに夢中。

結実(剣滝さんのこと、もっと知りたいな……)

 康に思いを馳せながら品出しを終えた結実。
 空のコンテナを手にバッグヤードへ戻るため、振り返る。

康「結実」
結実「ひゃ……っ!?」

 真横にいた康と鉢合わせ、驚いた結実。
 身体を後方へ仰け反らせる。
 バランスを崩してしまい、倒れそう。

康「危ない!」

 康、結実の腰を抱き、右手を取って引き寄せる。
 密着した状態。

康「大丈夫か」
結実「あ、ありがとう、ございます……」

 結実、顔を真っ赤にしながらお礼を告げる。

結実(背中から倒れたって、死にやしないのに……)

 康に抱きしめられた状態で、結実は思考を巡らせる。

結実(……でも。それだけ私を、心配してくれたってことよね……)

 結実、どこか嬉しそう。
 普段と異なる様子を見せる結実に、康は目を丸くする。

康「結実?」
結実「剣滝さん。いつも私へ会いに来てくださり、ありがとうございます」
康「どういたしまして……」

 康、不思議そうに頷き、結実の身体を離す。
 身長差の関係で康を見上げる結実、真顔で告げる。

結実「私も、剣滝さんが働いているところ……見たいです」

 康、何を言われているかわからず、目を見開く。
 長い沈黙の末、結実の肩を右肩で掴んで告げる。

康「本当か」
結実「無理だったら、いいんです。ごめんなさい。見学なんて、非常識ですよね。彼女でもないのに……」
康「全く問題はない」

 申し訳無さそうな結実、康は力強く頷き了承。
 結実、康を見つめて不安そう。

結実「でも……」
康「俺はいつでも、歓迎する。今からだって、構わない」
結実「今から、ですか?それは、ちょっと……」

 結実、視線を彷徨わせる。

結実(私が抜けると、結星がワンオペになる……。大丈夫かしら……?)

 レジを担当していた結星を見つけた結実、目線で訴えかける。
 聞き耳を立てていた結星、右手を払う。

結実(あれは……。行って来いってことよね……)

 結星のハンドサインを受けた結実、康に視線を戻す。
 康、結実に優しく問いかける。

康「そうだな。いつなら、いいだろうか」
結実「えっと……抜けても大丈夫みたいなので。このまま、お願いします……」

 結実、康に向かって頭を下げる。
 康、結実に持参した赤薔薇を渡すと、優しく微笑む。

康「行こう」

赤薔薇を受け取った結実、康に手を引かれて外に出る。



○株式会社ソードシールド・社内ロビー(昼)

結実(剣滝さんから赤薔薇を7本受け取った私は、コンビニの制服から私服に着替え、彼の働いている会社へ向かった)

 コンビニの制服から白のワンピース、黒のジャケット、黒のハイヒールを身に着けた結実。
 康と手を繋いで社内へ。社内ロビーの受付はスルー。
 受付嬢が頭を下げる姿を見つめながら、康に聞く。

結実「受付を済ませなくて、いいんですか」
康「気にするな。俺と共にいる限り、顔パスだ」

 康、自慢げ。
 結実と共にエレベーターへ乗り込む。

結実(さすが、御曹司……)

 結実、感心する。

康「俺のそばを、離れるな」

 康、結実と離れないように、しっかり手を繫ぐ。

結実(彼女でもないのに、恋人繋ぎなんて……)

 結実、繋いだ手をじっと見つめる。

 ※

○株式会社ソードシールド・企画開発室(昼)

 康、結実へ社内を案内。

康「弊社は社名の通り、剣と盾を専門に取り扱っている」
結実「剣はわかりますけど、盾って……?」
康「防犯や護身用の盾だ。警備会社や、サバイバルゲームなどで利用されている」
結実「なるほど……」

康 から説明を受けた結実、納得。

結実(剣滝さんはサバイバルゲームを運営する会社や、警備会社を回って商品を売り込む営業職をメインに働いている)

 康から説明を受けた内容を、頭で思い浮かべる結実。

結実(毎日のスケジュールは、ある程度自由に決められるそうよ。だから同じ時間に、私へ会いに来れたのね……)

 実際に販売されている剣と盾を見せて貰い、結実は目を丸くする。

結実「これ、本物ですか……?」
康「ああ。実際に販売しているものだ。剣先に触れると、怪我するぞ」
結実「凶器が、こんなにたくさん……」

 抜身の状況で、複数の刀が飾られている姿を見た結実、怯えた様子。
 結実を慰めるように、康は腰を抱く。

康「従業員に刀や剣を使って、悪さを働くような不届き者はいないからな。心配ない」

 耳元で囁かれた結実、展示された剣や刀を見つめながら考える。

結実(不審者が侵入してきたら、大変なことになるわよね……?)

 結実、刀や剣を振り回す不審者の姿を思い浮かべ、背筋を凍らせる。
 青褪める結実の姿を見た康。
 不安そうに結実を見つめた。

康「結実……」
女性社員1「嘘!? 御曹司が女連れなんて!」
女性社員2「ありえない!」

 女性社員2名の叫び声に、何事かと振り返る結実。
 メイクバッチリなスーツ姿の女性社員2名が、結実と康を見つめて会話。

女性社員1「女の影なんて、なかったはずでしょ!?」
女性社員2「あたし達の方が、よっぽど整った容姿をしているのに……!」

 女性二人の恨めしい視線を受け、怯える結実。
 康、結実を庇うように抱きしめ、女性社員2名に冷たい視線を投げかける。

康「彼女の容姿が、君たちよりも劣っているだと? 何を根拠に、そのような戯言を口にするのか……さっぱり理解できないな」
女性社員1「剣滝さん!」

 女性社員1、康の名字を叫ぶ。
 結実、康に抱きしめられているせいで、状況を飲み込めない。

康「俺の彼女は、誰よりも美しい」
女性社員1「な……っ!?」
女性社員2「どこが!?」

 真顔で堂々と宣言する康。
 女性社員2名、大ブーイング。

結実(どこからどう見ても、彼女たちの方が美人よね……?)

 結実、困惑。

康「何より、優しい心の持ち主だ。俺は結実を愛している」

 女性社員二人、絶句。
 結実、愛の告白を受けて戸惑う。

結実(こんなところで言わなくたって、いいじゃない……!)

 顔を赤くした結実、康の裾を左手で掴んで引っ張り、意識を向けようとする。

結実「け、剣滝さん……」
康「結実と俺の交際に、文句を言われる筋合いはない」

 康、二人の女性社員を険しい顔で牽制。
 結実を抱き上げ、颯爽とその場を去る。

 ※


○株式会社ソードシールド・社内廊下(昼)

結実(私達、付き合ってはないわよね……?)

 結実、康に抱き上げられる。
 視線を彷徨わせ、落ち着かない様子。
 康に問いかけられず、心の中で疑問を抱く。

康「俺に興味を持ってくれるとは、思っていなかった」

 康、納得が行かない様子を見せながら、結実を抱き上げたまま廊下を歩く。

結実(さっきまでは、自信満々な様子だったのに……。弱音を吐くなんて……)

 結実、ギャップにキュンと来る。

康「俺は、期待してもいいのだろうか」
結実「構いませんよ」

 即答した結実、小さく頷く。
 康、廊下の真ん中で歩みを止め、結実を見つめる。

結実(剣滝さんから受け取った赤薔薇の本数は、合計56本。それを受け取るたびに、私は彼の魅力にどんどん引き込まれていく)

 見つめ合う二人。
 結実、これからの未来について思いを馳せる。

結実(2か月後、私は彼から108本の赤い薔薇を、受け取り終える。今だって、心臓が持たないと感じることも多いのに。その時私は、どうなっているのだろう?)
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