君は優しい嘘つき
「雫、やっぱりさ。こんな時間にひとりは危ないと思う」
「……うん」
「だから…」
「うん、もう行かない」
聞きたくなくて、歩の言葉を遮ってしまった。
「……そっか」
じゃあなと隣の家に帰っていく歩に、手を振りながらごめんと心で呟く。
歩の心配はきっとその通りで、実際さっき声をかけてきたのが歩以外の人だったらと思うと落ち着いたはずの心臓が再度嫌な音を立て始める。
でも、それでも。
あそこが私の逃げ場所だから。
きっと私はまたあのベンチへと足を運ぶだろう。
何でこんな時間に、あんな所にいるのかも言わずに、それでも心配してくれる歩に嘘をついてまで行く意味を問われれば、それに答えられるほどの理由はないけれど。
でもあのベンチ以外の逃げ場所を、私は知らないから。