強気で完璧なお嬢様は執事の前でだけヘタレ
8. お嬢様、執事とギクシャクする
──僕との婚約についてです。
尚人さんの言葉が、頭から離れなかった。
「……婚約?」
「はい」
玄関ホールに立つ尚人さんは、いつもと変わらない穏やかな笑顔を浮かべていた。
鈴間家。
久保寺家と肩を並べるほどの名家で、巨大なIT・通信企業を傘下に持つ家柄。
裕大叔父様はこの家に婿入りしている。
その関係から、幼い頃に──乳児の頃に出会い、何度も顔を合わせてきた人。
けれど、婚約なんて話は、一度も聞かされていない。
「父から、近いうちに正式な話をすると聞いています」
「……叔父様から?」
「はい」
尚人さんは、少し困ったように笑った。
「僕も昨日聞いたばかりです」
「そう、でしたの」
胸がざわついて、口の中が渇く。
どうして今なのだろう。
昨夜、藤太がこの屋敷を出ると言ったばかりなのに。
「瞳さん」
「はい」