強気で完璧なお嬢様は執事の前でだけヘタレ
8. お嬢様、執事とギクシャクする



 ──僕との婚約についてです。


 尚人さんの言葉が、頭から離れなかった。


「……婚約?」

「はい」


 玄関ホールに立つ尚人さんは、いつもと変わらない穏やかな笑顔を浮かべていた。

 鈴間家。

 久保寺家と肩を並べるほどの名家で、巨大なIT・通信企業を傘下に持つ家柄。

 裕大叔父様はこの家に婿入りしている。

 その関係から、幼い頃に──乳児の頃に出会い、何度も顔を合わせてきた人。

 けれど、婚約なんて話は、一度も聞かされていない。


「父から、近いうちに正式な話をすると聞いています」

「……叔父様から?」

「はい」


 尚人さんは、少し困ったように笑った。


「僕も昨日聞いたばかりです」

「そう、でしたの」


 胸がざわついて、口の中が渇く。

 どうして今なのだろう。

 昨夜、藤太がこの屋敷を出ると言ったばかりなのに。


「瞳さん」

「はい」


< 101 / 182 >

この作品をシェア

pagetop