強気で完璧なお嬢様は執事の前でだけヘタレ



「そうでした……」

「懐かしいですね」


 尚人さんが笑う。

 その笑顔を見ていると、自然とこちらも笑ってしまう。

 昔なじみで気心の知れた相手は、やはり落ち着く。


「尚人さんは、昔から変わりませんのね」

「そう?」

「はい、いつも落ち着いていて」

「瞳さんが昔から無茶するから、落ち着いていないと大変だったんですよ」

「わたくし、そんなに無茶していました?」

「木から落ちたり、池に落ちそうになったり」

「……」

「あと、迷子になったこともあった」

「それは……子ども頃の話です」

「僕が見つけたんですよ」

「……そうでしたね」


 小さな頃の記憶。

 木から落ちて泣いていたわたくしの手を、尚人さんが握ってくれた。


『大丈夫、僕がいるから』


 あの言葉を、今でも覚えている。

 だからわたくしは、尚人さんを信頼している。

 昔から、ずっと。

 でも、今その記憶を思い出しても。


< 104 / 182 >

この作品をシェア

pagetop