強気で完璧なお嬢様は執事の前でだけヘタレ
心に浮かぶのは、なぜか別の顔だった。
──藤太。
雨の庭で初めて見た、傷だらけの顔。
月夜に隣へ座ってくれた横顔。
そしてあの日。
『俺、みそら園の決着がついたらここを出る』
そう言った彼。
「瞳さん?」
「……はい?」
「ぼーっとしてましたけど、大丈夫?」
「ええ」
わたくしは慌てて微笑んだ。
「少し、考え事をしていただけです」
「そうですか」
尚人さんは、それ以上聞かなかった。
やっぱり昔から優しい人だ。
なのに胸の奥は、落ち着かなかった。
──その日の夕方。
応接室には父方の親戚や、鈴間家の関係者が集まっていた。
わたくしはその場に座り、黙って大人たちの話を聞いている。
「両家の関係を考えれば、これ以上ない縁談でしょう」
「鈴間家と久保寺家が結びつけば、会社としても──」
会社。
家。
将来。