強気で完璧なお嬢様は執事の前でだけヘタレ



 心に浮かぶのは、なぜか別の顔だった。


 ──藤太。


 雨の庭で初めて見た、傷だらけの顔。

 月夜に隣へ座ってくれた横顔。

 そしてあの日。


『俺、みそら園の決着がついたらここを出る』


 そう言った彼。


「瞳さん?」

「……はい?」

「ぼーっとしてましたけど、大丈夫?」

「ええ」


 わたくしは慌てて微笑んだ。


「少し、考え事をしていただけです」

「そうですか」


 尚人さんは、それ以上聞かなかった。

 やっぱり昔から優しい人だ。

 なのに胸の奥は、落ち着かなかった。

 ──その日の夕方。

 応接室には父方の親戚や、鈴間家の関係者が集まっていた。

 わたくしはその場に座り、黙って大人たちの話を聞いている。


「両家の関係を考えれば、これ以上ない縁談でしょう」

「鈴間家と久保寺家が結びつけば、会社としても──」


 会社。

 家。

 将来。



< 105 / 182 >

この作品をシェア

pagetop