強気で完璧なお嬢様は執事の前でだけヘタレ



 優しいだけでなく、わたくしの意思を尊重してくれる人。

 昔から知っている、信頼できる人。

 もしわたくしが久保寺家の娘ではなく、普通の女の子だったなら。

 この人との未来を、素直に考えられたのかもしれない。

 けれど。

 今のわたくしの頭に浮かぶのは。

 ──やっぱり、藤太だった。


「……少し、お時間をいただけますか」


 わたくしはようやく、それだけ言った。


「もちろん」


 尚人さんが微笑む。


「ゆっくり考えてください」

「ありがとうございます」


 その優しさが余計に苦しく、肩や胸に重くのしかかる。

 永遠にも思える話し合いが終わり、わたくしは静かに廊下へ出た。

 少しだけ一人になりたかった。


「……藤太」


 無意識に名前を呼ぶ。

 けれど返事はない。

 屋敷をあちこち歩いた。

 廊下、書斎、使用人室。

 どこにもいない。


「……どこにいるの?」


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