強気で完璧なお嬢様は執事の前でだけヘタレ



 近すぎて吐息の音が聞こえそう。

 肩が触れて、制服越しの体温に染められそうで。

 変な汗をかいてしまうかと思った。


「顔赤いけど、熱ある?」

「ありません!」

「本当に? でも赤い」

「雨が……そう、雨のせいで!」

「そっか」


 男の子は素直に頷いてくれたけど、だいぶ無茶な言い分なのは自分が一番よくわかっていた。

 思わず顔を覆いたくなる。


「……もう」

「どうかした?」

「……何でもありませんわ」

「変なの」


 幸いにも、こちらの動揺は伝わってないようでホッとした。

 緊張していてわからなかったけど、この人、実は天然なのかもしれない。

 人のことはよく見ているというのに、自分が何をしているのかはわからないのだろう。


「……名前は? まだ聞いてない」

「そうでしたわね」


 指摘された通り、彼はわたくしの名前すら知らない。


「久保寺瞳です」



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