強気で完璧なお嬢様は執事の前でだけヘタレ



 その瞬間だった。


「──お嬢様」


 横から声がして、指先が震える。

 藤太が書類を持って立っていた。


「資料が届きましたので、お部屋に置かせていただきます」

「あ……はい」

「では、失礼いたします」


 藤太が流れるような所作で一礼する。

 尚人さんはそんな藤太を見て、穏やかに声をかけた。


「野澤藤太くん、だったね」

「はい」

「田中さんから聞いたよ。最近になってからここで働き始めたんだってね」

「おっしゃる通りです」

「驚いたよ。あまりにも完璧でね」

「恐れ入ります」

「瞳さんのお父さんには、昔から父共々いろいろ世話になっていてね。良ければこれからも彼女の力になってほしい」

「……精進いたします」


 藤太の声が、妙に低い。

 わたくしは彼を見た。

 ほんの一瞬、目が合う。

 けれど、藤太はすぐに視線を逸らした。


「失礼いたします」


< 113 / 182 >

この作品をシェア

pagetop