強気で完璧なお嬢様は執事の前でだけヘタレ
その瞬間だった。
「──お嬢様」
横から声がして、指先が震える。
藤太が書類を持って立っていた。
「資料が届きましたので、お部屋に置かせていただきます」
「あ……はい」
「では、失礼いたします」
藤太が流れるような所作で一礼する。
尚人さんはそんな藤太を見て、穏やかに声をかけた。
「野澤藤太くん、だったね」
「はい」
「田中さんから聞いたよ。最近になってからここで働き始めたんだってね」
「おっしゃる通りです」
「驚いたよ。あまりにも完璧でね」
「恐れ入ります」
「瞳さんのお父さんには、昔から父共々いろいろ世話になっていてね。良ければこれからも彼女の力になってほしい」
「……精進いたします」
藤太の声が、妙に低い。
わたくしは彼を見た。
ほんの一瞬、目が合う。
けれど、藤太はすぐに視線を逸らした。
「失礼いたします」