強気で完璧なお嬢様は執事の前でだけヘタレ



 美緒も振り返る。


「瞳、いらっしゃい」

「……ええ」


 声がうまく出なかった。


「どうかした?」

「園長さんに、用事がありますので」

「でも──」

「失礼いたします」


 わたくしは笑った。

 上手に笑えていなくても。


「俺、呼んで──」

「先に行きます」

「待って」

「待たせてしまっていますので」


 それだけ言って、わたくしは二人から離れた。

 みそら園について考えなくてはいけないのに、胸が痛い。

 美緒は藤太の幼なじみで、制服の襟を直すくらい当たり前。

 そんなこと、わかっているのに。

 嫌だった。

 あの距離が、自然な触れ方が、自分にはできないことが。

 すごく苦しい。


「わたくし……」


 藤太と尚人さん。

 どちらを見ても、胸が違う音を立てる。

 でも美緒が蓮に触れたときのほうが、ずっと嫌だった。

 その理由を考えたくなくて、わたくしはうつむいた。


< 118 / 182 >

この作品をシェア

pagetop